舘野泉氏新刊本
2013年 10月 25日
急激に季節は秋となり、感覚が研ぎ澄まされる時期を迎えました。こちらは日々に忙殺されつつも、ふと立ち止まって自分の来し方や人との出会い、音楽との関わりを考えることもおおく。先日は20年も人生を共にした実家の愛猫が亡くなり、最後を看取ることもできなかったのが心のこりだ。おもえば2人の祖母を亡くしたときも、東京にいたりドイツにいたりで立ち会えなかった。愛猫は、最後の最後まで立ち上がろうともがき、立派だったという。大切な存在の死をきちんと見届けることなく看過してしまう人生なぞ、なにか欠陥をうむのではないか、うすっぺらぺらの情のうすい人間になってしまうような危機感すらおぼえる。
さて、六耀(りくよう)社から出版される舘野泉『生きる力』に、5月に書いた「左手の音楽祭」評が掲載されることになった。「ソリストの思考術シリーズ」の第8巻にあたり、出版社の創立40周年記念の企画出版とも重なる力作。舘野氏は2002年、デビュー40周年記念リサイタルの演奏中に脳卒中で倒れ、以後右半身不髄となった。右手が使えなくなるという、ピアニストにとっては誰もが絶望を禁じ得ない状況のなか、現在は「左手」のみで演奏活動を続ける新生・舘野泉としてカムバックされ、世界でも唯一無二の活動を展開されている。ここに至るまで、計り知れないほど壮絶な自己との闘いがあったことだろう。氏の演奏に巡り会えたことに幸運におもうし、私の評などを著書に収めていただいたことに恐縮と光栄をとおりこした何とも言えぬ空恐ろしげな心地です。
みなさん是非お手にとってご覧ください。
by kfushiya
| 2013-10-25 21:37
| 音楽と日々雑感