【*2015/06】


by kfushiya
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アンリ・バルダ『神秘のピアニスト』

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以前フランスのピアニスト、アンリ・バルダ(Henri Barda)のディスクコンサート・レヴューを書いたことがご縁で、ピアニストの秦はるひさんがバルダの伝記『アンリ・バルダ〜神秘のピアニスト』(青柳いづみこ著/白水社刊)を送ってくださったのが一ヶ月ほど前。その間仕事なりなんなりでバタバタしており、ようやく師走も近くなって拝読中だがこれがなかなかおもしろい。バルダの、あの思い切りのよい大胆な解釈の演奏、ユーモアたっぷりのステージングからは想像もつかぬほど、本番前後はなだめようもないくらいナーヴァスになるのだそうだ。その一筋縄ではいかぬ気難しい性格をなだめすかしつつ時にその才能に心の底から感嘆しつつ、いかに一冊の伝記が出来上がっていったかが、彼の人生とともにそのままビシバシと伝わってくる青柳氏の筆致にあいも変わらず感服。バルダの演奏にはじめて触れたときの衝撃は忘れられない。ジャズ・ピアニストに通底するようなグルーヴやダイナミズムが、今日びのその筋の方々よりはるかに濃厚に根源から湧き出ていたからである。並のジャズ・ピアニストを聴くよりよほどスリリング、というのが正直なところだ。大筋の自分の感想と、著者の青柳氏の評とが当たらずしも遠からずのところが多かったので、さほど頓珍漢でもなかったのだな、とほっと胸を撫でおろしたり。しかしながら、秦はるひ氏がその実現に向けて奔走したという2008年のアルバム『紀尾井ホールライヴ』、伝記のなかでも触れられているとおり、フランス本国でもその評はショパンについてばかりで、併録されているブラームスの演奏については書いてないものばかりだ、という青柳氏の見解にはぎくり。自分も、ついグランド・スタイル的なショパンにばかり気をとられてしまったな、と。

さておいて、アンリ・バルダの凄さを言葉であらわそうとすると、どうしてもすり抜けてしまうものがあるが、その捉えどころのない壮絶さを巧く絡めとった表現に著書も大詰めになって出会った。以下引用させていただくと;

・・・もしかしたら、バルダの自虐趣味こそが彼をピュアなまま保たせているのかもしれない、と。聴衆を感動させたことを認識させてしまったら、次回からは感動を演出するようにもなるだろう。こうすれば人は感動してくれる・・・ノウハウを知ってしまうと、無意識のうちにセルフコピーを始める。そのくらいなら、客席の感動を察知しないほうほうがよほどいい。・・・(同著 p.238)


音と音との間がもっとも重要であるとするバルダの音楽、"音の隙間を筋肉で埋める" バレエのピアニストとしての経験が小さくはない位置をしめるというその経歴。彼の音楽が突き付ける、ジャンル云々を超えた一回性の衝撃(単純に即興という単語では括れない)の鍵がこのあたりにあるような気がした。
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by kfushiya | 2013-12-01 20:03 | 音楽と日々雑感 | Comments(0)