【*2015/06】


by kfushiya
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Niggenkemper/Nabatov/Cleaver『Upcoming Hurricane』(2011;NoBusiness Record)

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↑風を孕む楽器の運動総体


9月末からクラシックを中心としたコンサートが連続しており、毎日どこかへ出掛けては夜半に戻る日々で、いつ何があったのか覚えていないほど。それ以外でも多忙が重なり、寝しなには本を開くも知らずに爆睡していることが多く、なんだかなあ、歳だわもう、という状態。日本語ばかり書いているので、外国語の勘が全くもって鈍磨しており、せめてフェイスブックぐらいはな、と多国語で書き散らしてはいるけれど。ところで音楽を書く人の国別専門主義(日本の一大特徴)は私は嫌いだが、そのスタンスを取るのならば、当たり前のように現地語ぐらいには熟達していてほしいとおもうが、まあどうでもいいや。

前からSimon Nabatov(サイモン・ナバトフ)のファンだったが、Nils Wogram経由でレヴューを書いたのもあって、フェイスブックでお友達になった。ジャンルに拠らず音楽の天才にはよくあるように、御多分にもれず彼もポリグロットで、チャットは主にポルトガル語を用いている。ロシア人と日本人がポルトガル語を共通語にするのも何か面白い。今回、ニューヨーク・ベースのベーシスト、Pascal Niggenkemper(パスカル・ニッゲンケンパー)名義のトリオ作品がリトアニアのNoBusiness Recordから出た。作品云々の前にまずこのレーベルがとても素敵だ。Danas Mikailionisが代表とプロデューサを務めるが、アルバムは大半がCDとLPの二本立てで制作されている。レーベル名を見ても、儲けを度外視したクオリティ追求の気概を感じる。2009年にはAll About JazzのBest100 Labelにも選出された。

それで、この『Upcoming Hurricaine』は、前出のNiggenkemperを筆頭にSimon Nabatov(p)、Gerald Cleaver(dr)というヴェテランが脇を固めるトリオである。Stuart Broomerによるライナーにもあるように、タイトルにも「風」を感じさせるものが多く、なるほどNiggenkemperのプレイにも羽虫がかさこそと音を立てるごとき木の震えから、ここぞという隙間でのエレクトニクスやアルコの響かせ方など、生のままの楽器の声を、非常に広い音の振幅で堪能できる。三者三様にナチュラルに呼吸しつつ自在に拡張していく様は、さながら葉脈を見ているよう。緊迫すらが自然の帰結として感じられてしまう。やはり個人的にはナバトフのピアノの音質に惹きつけられる。どんな一音のなかにも呼吸があり、この録音では具体的に何のピアノを用いているかは不明だが(家ではモスクワ時代から100年もののベヒシュタインを愛用していると言っていた)、鍵盤が指に吸いつかれていくような一体感、ごく限られたアーティストだけが具現する、自身の楽器化ではない楽器の自身化を成し遂げていて、感応せずにはおれない音の鳴りである。ビリビリと来るが実にしなやかだ。Cleaverのドラムも然り。Niggenkemperのベースは、決して多弁ではないのだが、音数ではなくニュアンスで魅せるもので、効果音的アプローチから本来のリズム隊へと行きつ戻りつするそのツボが、何だかすごくセンスが良い。変拍子の妙云々以上に、オチの付け方が天性というかとても文学的だ。アルバムを通して、ひじょうにタイトな構成力はすでに自明のものとして無色でそこに在り、自由な飛翔感だけが風通しよく漲る。「ピアノトリオ」というともはやジジババの回顧録と化してしまったような先入観がつきまとうが、そうしたものから見事に逸脱していて未来を感じる。考えてみれば他の編成と比較しても、ピアノトリオは歴史的には浅い形態であるはずなのに、なぜに古色蒼然としたイメージがついてしまったのだろうか。この国だけか。

明日からはペーター・ブロッツマン3Days。とても楽しみだ。体調と相談しながら、ぐだぐだと(www)書く時間の確保を模索している。

【関連リンク】
http://nobusinessrecords.com/NBLP40.php
http://www.nabatov.com/
http://www.turbopascale.de/home.html
http://www.geraldcleaver.com
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by kfushiya | 2011-10-13 12:30 | 音楽と日々雑感 | Comments(0)