【*2015/06】


by kfushiya
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

William Parker Quartet 『Raining on the Moon』

c0206731_3374132.jpg

↑素晴らしき完成度の『Rainning on the Moon』(Thirsty Ear;2002)



昨年はライヴでチェロを聴くことが多かった。奏者が素晴らしかったのは言うまでもないのだが、弦楽器そのものが有する「ひとはじき」の広がりにも幻惑されたといってよい。一音が内に抱え込む無数の声。類似の形をもつダブルベースはどうだったかといえば、クラシックでもそれ以外の形態でも「難しい楽器だなあ」というのが正直な感想。たとえば、チェロと一緒に奏された場合、どちらかが埋没してしまうことが結構ある。音自体の伸びがあまりよくない楽器ということもあるのだろうが、随分前から流行っているいわゆる「ベースレス・トリオ」というのを見ても、その部分を他の楽器で賄おうとする傾向が強い。だからこそ、コントラバスで豊かな詩情や存在感を出している奏者と出会うと感激もひとしおだ。日本のシーンで言えば、トッド・ニコルソン。確実に「音の強さ」以外のところで目立っている。一音でこれほど雄弁になるということは、一見看過されやすい低音で乾いてくすんだ音色(おんしょく)であることを考えると、驚愕すべき資質と言わざるを得ない。リズム感や技術的なことももちろんだが、それ以上の人間性とセンスが寡黙に、そして情け容赦なく語られる。

最近まとめて聴いているNils Wogramのバンドでも、ケルン・シーンの若手、マット・ペンマンの渋さに唸ったが、アコースティックのベースに傾聴していくと無性に恋しくなるのがWilliam Parkerの『Raining on the Moon』だろう。Parkerといえば、マディー・ウォーターズにちなんだアルバムを出したばかりとかで、ふとしたことから再びブルースを聴きこもうと思っている自分にとっては時宜にかなっているアーティスト。タイトル名がそのままプロジェクト名になって続いているらしいが、あまりにこの一作で完成度が高いため以後の活動が地味に感じる。ParkerはもちろんHamid Drakeなどキラ星のメンツだが、ヴォーカルのLeena Conquestって一体誰じゃ?、というのがこのアルバムを聴いた誰もが思ったはず。自分もこれを聴くまで全く聞いたことがなかったが、なかなかに味のあるシンガーで、初めて聴く声のはずなのに、非常にこなれたしっくり感、というか新鮮かつ既視感(既聴感?)があるのだ。久方ぶりにこのアルバムを引っ張り出して、もう音を出す前に一曲目の「Hunk Papa Blues」のサワリ、バーンとダブルベースがはじかれる瞬間ですでに震えが来るが、曲を追うごとに驚くほどそのベースラインが記憶にこびりついているのに気づく。7~8年ぶりに聴いたのに、だ。考えてみれば、楽器によらずリフとかミニマリスティックなプレイというものは、意識的にせよ無意識的にせよ「聴くものの骨身に刻みこまれる」効果(というか結果)を生まなければ意味がないのであって、その意味でこのParkerのシンプル極まりない小細工なしのべースラインのリフは、徹底した効果をあげていると言える。1曲目から8曲目まで、最初の一音が鳴らされるや否や、たちどころにすべて思い出すのだから。ベースラインがシンプルならば、歌詞も口ずさめるほどストレート。Parkerの音楽がその本質に宿すところの苦渋やペーソスに、その達観の域に達したかのようなドライな寂寥に、複雑な技法や構造はもはや不要なのかもしれない。明るいとはいえない世界なのだが、なぜか心が暖まる。考えてみればHamid Drakeというのも、たった一音で自己をすべて語れるアーティストである。自己表出の速度があまりに迅速で、ゆえに空気と即座に混ざり合う為、聴く者にとってはどんな爆音を出されても衝撃や異物感はないのだ。個性はそれぞれだが、近藤等則や田村夏樹にも同じ感慨を覚える。その意味で、本作に参加しているBob Brown(a.sax;fl)とLouis Barnes(tp)には、サウンド全体に彩りを添えてはいるものの、ここまでの「割り切りの良さ」というか突き抜け感は感じられない。極めて人間臭い好プレイであることは間違いないが。

で、Leena Conquest。都会的で品があるがモノ足りなさは全く感じない。張りのあるハスキー・ヴォイスに、そこはかと漂いながらも決して消えることのない泥のような粘着質。ファンクやソウルが、その本筋がブレることなしに、頑なに世界観を閉ざすことなしに、自然な形で同時代を吸収していった発展形の、飾らない姿がここにある。灰汁が弱くは決してないが、切り口がソフトなのだ。だからこそシンプルな歌詞が水を得た魚のようにうまく乗るし、聴くものの深層にぽっと宿る。7曲目「James Baldwin to the Rescue」は、このLeenaのヴォーカルといい、感極まるDrakeのドラムといい、曲想の成熟度といい、掛け値なしにアタリの1曲。Leena Conquestは、粘つくようなファンクネスと正統派ジャズ・ヴォーカルの洗練の両面を合わせ持つが、たまに後者の側面が前面にでるときには、誠にヨーロピアンな薫りを放つ。アフリカン・ルーツでオランダあたりの出自か、と勝手に推測していたが、テキサスはダラス出身。ピアニストのDave Burrelとのデュオで録音もしているようだ。アフリカンなタイトルの終曲は、ダブルベースにエフェクターが掛けられてハープのような夢幻的な拡張を見せるサウンド。対するヴォイスにはどこか現実的醒め感が漂う。
[PR]
by kfushiya | 2011-01-06 03:53 | 音楽と日々雑感 | Comments(0)