【*2015/06】


by kfushiya
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Jeanne Lee 二本立て。

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↑Jeanne Lee & Ran Blake『You stepped out of a cloud


音楽の魔境に入っております(笑泣)。Gunter Hampelの亡き妻・Jeanne Lee(1939-2000)がピアニストのRan Blakeと組んだアルバム『You stepped out of a cloud』。美しい、という言葉で到底語りつくせるものではない。「身体」を感じる、という次元を遥かに超えた、肉体の生感覚そのままのLeeのヴォイスはもちろんだが、Ran Blakeのピアノが鳥肌もの。聴いたのはこのアルバムがはじめてだが、あらゆるジャンルのピアニストのなかでも最高峰のクラスに入るピアニストだ。ウェヴによるとまだ75歳でご存命のご様子。もっと知られてもいいのに、と思う。本人のHPもなんだか淡々としていて見やすいともいえず、これを見ても目立ったり自分を売ったりすることにはさほど関心のない方のようだ。バード・カレッジ出身で、作曲とインプロをRay CassarinoやOscar Peterson、Bill Russo、Mary Lou Williams、Mal Waldronなどに師事した。主に名バイプレイヤー、教育者として知られているらしい(来る9/20には75歳バースディ記念コンサートを教鞭をとるニューイングランド音楽院で行う模様)。何といってもピアニストの天分が如実に宿り、すべてが還元されるところでもある「音色の美しさ」において比類ない。甘美だが屹立した音質、ヨーロッパのクラシカルな構築美とガーシュウィン的な陰影、ジャズのイディオムが見事に溶け合いどこにも属さぬ普遍の中立性を獲得。気負いがなく自然。魂そのものの肉体化、ってことか。このアルバムが秀逸なのは、デュオとソロ構成、ということを一瞬忘れる、音そのものの自立性の見事さだ。たとえば二曲目の"Newswatch"。ヴォーカル無伴奏ソロ、だが意識されるのは「肉声=魂」のみ。激情に任せて咆哮する部分は皆無なのに静かに熱い。発音されている言語(英語)自体が、ただの心地よい音として知覚されうる。非言語を「ヴォイス」として表現するより、普通の言語をそのまま音として響かせるほうが、ワザを要するに違いない。三曲目のピアノソロ"Where Are You ?"も同様。何という音質なのだ!と感無量となりそれ以上の感想不要。扇情的なのに棘のような気品と甘美さ。電子楽器で如何なる音を重ねても、この生ピアノに比べれば音質は安い。"You Go to My Head"、"Corcovado"、"Alone Together"などのスタンダードも、余計な演出の引き出しを出す必要はなくストレートに、そのまま「イイ」。"You Go to My Head"はたまたまFlora Purimのものを持っていてよく聴いていたが、これを聴いた後では何とも俗だ。「デュオ」がガチンコの鬩ぎあいなのも刺激的だが、Lee+Blakeのようにアンサンブルの妙を出しつつ、互いに抑えて本音を言うのもまた違った官能の妙味。

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↑Archie Shepp『Blase

Jeanne Lee参加のお次は、この最高のキチガイ世界特盛り盤『Blase』(BYG)。パーソネルはLester Bowie (tp) 、Archie Shepp (ts) 、Chicago Beauchamps: Julio Finn (hca)、 Dave Burrell (p) 、Malachi Favors (b)、 Philly Joe Jones (d) 、そしてJeanne Lee (vo) と超豪華。供出される世界も抜かりなく狂っている。これぞ"Euphorie"なのかしらん。"Orgie"よりディープな気がするが(どうしようもない暗さを乗り越えている点で)。前掲のJeanne Leeとは似ても似つかぬ世界。冒頭の"My Angel"で展開される名実ともにブラックな世界に、もうこちらは笑うしかない。ブルース・ハープが乱舞するのっけから南部のごてごて乗りの中に、Sheppの濃厚なテナーが参画、序々ピアノ、ベース、タンバリンが畝ってどうしようもなく盛り上がる祝祭気分。そこに塗り重ねられるJeanne Leeのすっとぼけて高音で湿気の多いボーカルがつぶやくのは" Give me a Money"、"Honey Money"といったフレーズ(今の私の気分にも一番近いかも。くくく・・)。それにしてもSheppの、腹の底のもっと下のあたりから絞りとられたような音は極めて艶やか。血と肉の音。次の"Blass"もなかなかに凝っている。Malachi Favors が静かにベースラインを繰り返し、Dave Burrell が規則的にコードを鳴らす上に、メランコリックでやるせなさに満ちたサックスとヴォーカルが乗ってくるが、この歌詞がまた爆笑もの(淑女に発言ははばかられる)。だが、言葉の意味とは独立して、醸し出されている音楽の調子はあくまで、人生の憤懣や哀愁やどうにでもなれといった「もてあまし気味のレアでマジな感情」を保っているのがすごい。だから最後の一線で下品に堕さないのである。特に、Burrelの感情に楔を打ち込むかのごときピアノ、曲が進むにつれて白熱の真摯さを帯びてくるのが歌詞と逆行していて聴き所のひとつ。奇妙に明るいノリで勝手に吹き狂っているブルースハープが、無情に流れていく現実そのもの。そのほか、いかにも1969年録音らしいフリーの雰囲気濃厚なピアノが疾走する"Sophisticated Lady"や 、ドラムとサックスの丁々発止がそのまますとんと気持ちいい"Touareg"(エンディングも粋です)など、その精神状態のごちゃ混ぜ感が純粋に聴く者に快楽をもたらす一枚。

言葉を潰してノイズとして音化する、というより、言葉をそのまま音として現出して遊ばせながらその意味だけを剥ぎ取る、という高度なワザを肉体化しているJeanne Leeの実力に感服。深い音盤と向き合う歓びは今しばらく続きそうです。

ライヴ評は次回。
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Commented by 泉 秀樹 at 2010-09-13 16:14 x
kfushiyaさま
いつもお世話様です。
昨日、O元編集長から貴女にブログがあることをお聞きし、拝読さていただきました。
今回はJeanne Leeに触れられておらますね。Jeanne Leeは私も40年近く気になっいるミュージシャン・詩人で、数年前記載した拙文を思い出し、ご迷惑かも知れませんが、添付させていただきます。
貴女の変わらぬご活躍をお祈りいたしております。
http://www.shigotosoken.com/citacita/ac/magazine/no17.html
Commented by invs at 2010-09-14 00:05
Blog 一周年おめでとうございます。毎回、恐れ入るばかりの記事内容、今後ますます冴えることでしょう。とにかく本当に筆がたつ。日本のBlog界に革命をもたらしてください。
Commented by invs at 2010-09-14 00:06
今の投稿は大沢でした。
Commented by kfushiya at 2010-09-14 09:05
●大沢様
コメントありがとうございます。Johnny La Maramaの来日に合わせてブログをスタートしたので、彼らの再来日とともに「もう一年になるのか・・」という感じです。今後、細々ながらジャンル(使うのも厭な単語ですがね)越境的音楽ブログの方向にしていきたいと思っておりますので、ご高覧のほどよろしくお願いします!では、また。
Commented by invs at 2010-09-16 00:39
越境、大賛成です。応援しています。
Commented by kfushiya at 2010-09-16 09:22
●ありがとうございます!複数あることが常態であり、本質ですよね。こちらも越境的な招聘をますます期待しております(笑)。
by kfushiya | 2010-09-10 12:13 | 音楽と日々雑感 | Comments(6)