【*2015/06】


by kfushiya
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ベルリンに生息する「ビート詩人」トランペッター

いるだけで何となく可笑しい人がいる。
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↑Paul Brody(c) Dirk Haskarl

ベルリン在住のアメリカ人トランペッター・Paul Brody(ポール・ブロディ)がまさにそうだ。私の記念すべきベルリンお初ライブ体験がこの人のバンドだったことはいつか書いたが、「イカレ系」としては屈指。だが、トランペットの演奏自体はむしろオーソドックスで、結構ロマンチストな側面をものぞかせる。演奏というより、人物そのものに関する逸話が多い。ライヴの前の日に彼女2人が鉢合わせしてそれぞれ両頬をド突かれ、演奏不可能になったので代わりに弟子をステージに上げ、自分は客席の前列から指示を出していたとか何とか。真偽のほどはわからないが。

その Paul Brody率いるバンド"DetoNation Orchestra"(デトネーション・オーケストラ)のアルバム『Animal & Cowboy』は、彼がサンフランシスコに帰省中にたまたまフリーマーケットで見つけた詩集に曲を付けたというもの。彼自身によるライナーでは、「ブルース以外の北アメリカのフォーク・ミュージックは知られていないので、それを表現するのにもってこい」と述べられている。1. Animals and Cowboys、2. Love and Water、3. Food and War、4. Trains and Death、5. More Animalsの五部仕立て。それぞれがさらに何章かに分かれており、カウボーイや船乗りの人生が哀愁とユーモアとロマンと自虐たっぷりに、楽器とヴォイスにより綴られていく。バンドのメンバーが、David Moss(voice)、Tony Buck(dr, samples)、Ed Schuller(b)、Michael Rodach(g)という個性・実力ともに揃った方々なので凡そ語られる物語の入念さと壮大さは想像できようというもの(たまにMossの代わりにAlex Nowitz、Schullerの代わりにCarlos Bicaになったりする)。

そのまま聴いていても充分楽しいが、詩人・Paul Brody自身による詳しいライナーを見ながら聴き進めると理解度が深まる。彼はもともとボストン大学で本格的にポエトリーを専攻したという詩人なのである。根っからのロマンチストでストーリーテラー。一つの壮大な物語を作るための手段として、各楽器なり声なりが機能している感がある。どれか一つの楽器が目立つということは全編を通してあまりなく、楽器のソロの部分でも役者が台詞を語っているような、演劇じみた雰囲気がある。曲ごとのライナーは英語だが、各ページにドイツ語よるアフォリズム形式の文章が書き連ねてあり、これがまた複雑だが独特な回路を持つブロディの思考の一端を見たようてなかなかに興味ぶかい。例えば冒頭。

「記憶が『デジャ・ヴュ』に絡まれ始めると、音楽が生じる。記憶は穴だらけの広帯域フイルムのようなもので、良い記憶は抜け落ちる。記憶は未来的展望で見た場合の現在を過去として我々に突き出すと同時に、長い間そうであるはずと思われていたものを揺るがす。云々」

で始まり、最後が「記憶はトランペットだ」で終わる。何だかよくわからん。『記憶』はこのアルバムの重要なモチーフであり、本人も「ベルリンの暗い冬に味わうからこそこの詩集が格別となる」と言っているように、「異郷・ベルリンで郷愁とともに少々行き過ぎてしまった奇人・ブロディの、エスカレートした妄想一部始終」の表出、と受けとるのも面白い(なんだか、ドラえもん物語は全部のびたの夢だった、というあの残酷な仮定を思い出す)。ゲスト・ミュージシャンもBilly Bang(viollin)、Rudi Mahall(Cl.)、女性のテューバ奏者・Bettina Wouschkeと、ひそかに豪華だ。

別編成のクレツマー・バンド『SADAWI』も面白いが、これは生粋のニューヨーク色が濃い。DetoNationのほうは、「ベルリンのアメリカ」色である。
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by kfushiya | 2009-11-16 14:37 | ベルリン/音楽 | Comments(0)